2002-01-01から1年間の記事一覧

『菜摘ひかるの私はカメになりたい』菜摘ひかる著(角川文庫)

僕は、自分で自分のことを、感情の振れ幅の狭い人間だと思っている。嬉しいこともほどほどに喜び、悲しいことも、そこそこに悲しむ。苦しい時も平気な顔でやり過ごし、楽しいときも淡々として“別に・・・”という表情でいる。面白くもなんともない人間である。…

『グーグーだって猫である-2』大島弓子作(角川書店)

普段、マンガはあまり読まない人なのだけれど、決して嫌いなわけではない。好きなマンガは何度でも読むし、単行本が出れば買って読む。ちょっと癖のある人が多いんだけど・・・・・・。 この人のネコを題材にしたマンガは、その中でも大好きなもの。以前の“…

『ダーク』桐野夏生著(講談社)

デビュー作から続くミロの物語。今回で何かしらの完結を見るのかという思いがしていたのだけれど、最後まで読んでみると、このままでは終わらないなという気がする。そのデビュー作から1〜2作を除いてほとんど読んできていて、先日も『OUT』のレビュー…

『Side-B』佐藤正午著(小学館)

お気に入りの佐藤正午さんの新刊ですが、これは小説ではなくエッセイ。といっても、競輪関連の新聞や雑誌に掲載された競輪ファン向けの文章ということになるかな。デビュー作の『永遠の1/2』からずっと書かれたものを読んでくると、この人と競輪は切って…

『精神科に行こう』大原広軌著 藤臣柊子(マンガ)(文春文庫)

副題に“心のカゼは軽〜く治そう”とついた、まあ言うなれば軽〜い心の病の治療体験記みたいな本である。う〜ん、この人たちは心を病んだ経験者なのか、と思うと、文章や、各章ごとに挿入されるマンガの妙にハイテンションなところも、それとなくうなずいてし…

『男』柳 美里著(新潮文庫)

書店でパラパラっとめくって見て、かなりエッチっぽいな、と思ったのだけど、読んでみるとなんか妙に切なくなるようなところが多くて、それはそれで後味としては満足度の高い本でした。 肉体の色々なパーツ(声とかもあるので必ずしも的確な表現ではないけど…

『艶紅(ひかりべに)』藤田宜永著(文藝春秋社)

ブックオフの100円本で、しかもサイン本、しかも読んだらとってもいい本だったという申し訳ないくらいお得な本でした。 京都を舞台にした蹄鉄師(ここでは競馬馬の蹄を打つ)の男と、祇園の料亭の娘で、そこを飛び出して染色・織物の世界に入った女、この…

『メメント』(ビデオ)

何年か前にNHK特集で“脳”についてのシリーズがあった。その時の一本で取り上げられていたと思うのだけれど、“短期記憶の障害(直前のことを記憶できないこと)”というのがあるそうだ。自分のことや子供の頃のことはしっかり記憶されているのに、さっき何をし…

『めまい』(ビデオ)

ヒッチコックの中で、僕がもっとも好きな作品が、この『めまい』と『北北西に進路をとれ』の二本。あらためてDVDをレンタルして見直したのですが、やっぱり実に面白い映画です。ヒッチコックといえばスリラーまたはミステリーという印象があるけれど、この作…

『私の犬まで愛してほしい』佐藤正午著(集英社文庫)

お気に入りの佐藤氏の作品。といってもこれはエッセイ。もちろん初めて読む小説以外の文章。 でもって、雰囲気はというと、小説とあんまり変らないカンジでした。小説と同じく、エッセイについてもそれほどたくさんあるわけではないようで、かなり長い期間に…

『カーヴァーズ・ダズン』レイモンド・カーヴァー著/村上春樹訳(中央公論社)

村上春樹さんは、僕にとっては特別な作家といってはばからないけれど、実は僕にとっては、レイモンド・カーヴァーという人の作品を読むのはこれが始めて。もちろん今まで気にはなっていたのだけれど、とにかく翻訳小説を読むということからすっかり遠ざかっ…

『バッファローの月』加藤健一事務所(本多劇場)

僕が演劇を見るきっかけになったのは、もう20年近くも前になるけれど、この加藤健一さんの『寿歌』(ほぎうた)という舞台だった。核戦争が起きたあとの世界を描いた脚本で、小劇場の演目としては比較的有名なものの一本だ。それ以来、生身の人間がその時…

『ねじれた絆』奥野修司著(文春文庫)

沖縄で起こった赤ちゃん取り違え事件を長年にわたって追いつづけた、これぞまさにノンフィクションと言えるような本。 病院で出産し、我が子と思って育ててきた娘が、6歳になって他人の子であるとわかったとき、親は、子は、そしてまわりの人間は、いったい…

グローバル資本主義の幻想(下)『ケインズの誤算』佐伯啓思著(PHP新書)

できれば、6月15日(2002年)にアップしてある、上巻の分を読んでいただいた上で、こちらを続けていただけると幸いです。 実は、もう2週間ほど前に読み終わっていたのだけれど、きちんとした感想を書きたかったので、時間がかかってしまいました。この“…

『日本総合悲劇協会 業音』(草月ホール)

入り口のカメラチェックがかなり厳しい。その理由は……、主演の荻野目慶子熱演、ということ。それ以上はご想像にまかせます。毎回、松尾さんの芝居を見ると思うことがある。ひとつは、どうしてこれほどまでに“いかがわしく”“毒があって”“混沌とした”芝居を破…

『聖の青春』大崎善生著(講談社文庫)

将棋に興味がない人にとっては、まったく聞いたことのない名前だろうと思うが、村山聖(さとし)というプロ棋士を描いたノンフィクションである。テレビドラマにもなったので、そこで見た人も多いかもしれない。僕自身は中学・高校くらいに兄と多少指したこ…

『新・明暗』二兎社公演(シアター・トラム)

このところ色々な賞を受賞したりして、新聞に掲載された劇評などを見て、一度見てみたいと思った二兎社・永井愛という人の脚本による芝居。本当に初めて見る劇団であり、脚本家なのでどんな雰囲気のモノなのか、大変楽しみにしていました。 そして実際に見た…

『7days in BALI』田口ランディ著(筑摩書房)

バリを舞台にしたちょっとミステリアスな雰囲気の小説。路線は『コンセント』や『アンテナ』のような感覚だけれど、内容的には舞台となるバリ島に食われてしまったというところもあるか。本の作りを見れば、それはねらいとして意図されたもの、と好意的に解…

『放蕩記』佐藤正午著(講談社)

角川のハルキ文庫という中に収録されているらしいのだが、どこを探しても見つからず、図書館のお世話になることにした。少し前に読んだ『ビコーズ』と対になる作品。こちらが先で、『ビコーズ』がその続編にあたる。『ビコーズ』の方は、とても完成度の高い…

『海辺のカフカ』村上春樹著(新潮社)

読み終えてみると、前二作『ねじまき鳥クロニクル』と『スプートニクの恋人』の雰囲気がよみがえってくる。テーマ的にも、この二作に共通するものをさらに突き詰めたものかなと思える。 デビュー当時から、この人の文体の特徴のひとつには“比喩”があるのだけ…

パット・メセニー Speaking of Now Tour(NHKホール)

僕にとっては、いつどこでコンサートがあっても聴きに行きたいと思う人の一人。最初の出会いは、曲も何にも知らずにただジャケットに惹かれて買ったLP(まだレコードの時代)の“offRamp”。それ以来ずっと聴き続けて、ずっとコンサートにも通いつづけている…

『僕のなかの壊れていない部分』白石一文著(光文社)

単行本の新刊は久しぶりかな。9月も半ばだがこれが二冊目。実は『ビコーズ』をもう一度読んでいた。 特に何かの賞を取ったりしていないし、まだあんまり脚光を浴びていないように思うのだけれど、僕はとても好きな作家の一人。『一瞬の光』からこれでまだ4…

『藤堂志津子恋愛小説傑作選』藤堂志津子著(角川文庫)

しかし、本のタイトルというのは誰がつけるのか、そんなことを考えてしまった。いくら名の通った作家でも、自分の本に“傑作選”とつけるのは、恥ずかしいものじゃないのかなあと思ったわけです。恐らくは担当編集者が“これでいきましょう!”なんていうのに押…

『眠れるラプンツェル』山本文緒著(幻冬社文庫)

別に私小説でもない。実話でもない。完全なるフィクションだ(と思う)。しかし作家というのは普通の人がどうしてもとっぱらってしまうことの出来ない理性やモラルや羞恥心といったものを、取っ払ってしまったところで仕事をするのだなあ、と、この本を読ん…

『ビコーズ』佐藤正午著(光文社文庫)

この人らしさ、この人の雰囲気、そういったものが一番感じられる作品のように思った。つまり好きな人にはたまらない魅力ということ。行き詰まった新人作家が主人公。(かなりの部分、実話を感じさせるところも……)満足にペンが進まず自分自身を持て余し、そ…

『人参倶楽部』佐藤正午著(集英社)

しばらくミステリー系とか深刻なテーマの本が続いていたので、この人の本を読むとなんともホッとして、懐かしい場所に帰ってきたような感覚。いいなあ、こういうお酒・日常・色恋ばっかりのお話。“人参倶楽部”という所謂“クラブ”を舞台にした連作の短編小説…

『眠れぬ夜を抱いて』野沢尚著(幻冬社文庫)

夏前まで、テレビ朝日でドラマをやっていた原作。日記にも書いたように記憶しているけれど、脚本家としてはけっこう以前から名前で見る人の一人。活動の幅がだんだん広がり、ジャンルとしてもこのところはすっかりミステリー系、そして小説家として名前が売…

『青い夢の女』(ビデオ)

ジャン・ジャック・べネックスの『ディーバ』を初めて見たときのワクワクは、僕の映画体験の中でもとても好ましいものの一つだ。その後の作品も、二作目の『溝の中の月』以外はすべて見てきているし、そのどれも、僕自身はとても楽しめた作品だった。といっ…

『GO』(ビデオ)

在日韓国人を主人公にした青春映画(と言っていいかな?)。確か去年の作品ではなかったか。新聞の批評も好評だったし、見てみたいと思っていたのだけれど、結局はビデオでの鑑賞になってしまった。 見てみたいという理由のもう一つは脚本が宮藤官九郎という…

『スコットランドの黒い王様』ジャイルズ・フォーデン著(新潮クレスト・ブックス)

全然予備知識も何も無く、ブックオフで100円だったし、新潮社の翻訳もののシリーズだったし、ちょっとウラのあらすじが面白そうだったので買ってきた本である。しかし読んでみたら大いにあたりでした。実に小説らしい小説だし、じっくり丁寧に書かれているの…