『ビコーズ』佐藤正午著(光文社文庫)

この人らしさ、この人の雰囲気、そういったものが一番感じられる作品のように思った。つまり好きな人にはたまらない魅力ということ。

行き詰まった新人作家が主人公。(かなりの部分、実話を感じさせるところも……)満足にペンが進まず自分自身を持て余し、そんな生活が身の回りの他人にも影響し、どんどんと悪循環に陥っていく。その原因を他者にばかり求めて逃避していることに気づかされ、その発端となった出来事(まさに自分自身がひきおこした出来事)を清算するべく行動を始める。最後に目に見えて大きく変わるものは何もないけれど、そうした行動による主人公の変化の訪れを感じさせるラストが爽やかでいい。

主人公をはじめ、登場する誰もがどこかしら心に欠陥を抱えているのだけれど、そんなダメさ加減を“でも、しょうがないじゃん……”と素直に認めてしまう潔さ、そしてそんなダメさ加減をダメな人なりに“なんとかしなくちゃ……”と打開しようと行動する前向きさが、作品全体の雰囲気として、おかしくて哀しくて泣けてくる。
本を読んでも、まったくといっていいくらい泣かない人なのだけど、夢中になって読んでいたら“アッ、やばいかも……”という気分にずい分やられました。