『スコットランドの黒い王様』ジャイルズ・フォーデン著(新潮クレスト・ブックス)

全然予備知識も何も無く、ブックオフで100円だったし、新潮社の翻訳もののシリーズだったし、ちょっとウラのあらすじが面白そうだったので買ってきた本である。しかし読んでみたら大いにあたりでした。実に小説らしい小説だし、じっくり丁寧に書かれているのが伝わってくるし、テーマは物凄く深刻なものだけど、ちょっとユーモアすらある軽い雰囲気(文体)はボク好みの内容でした。

ウガンダのアミンといえば、恐怖政治に虐殺といったイメージがすぐに浮かんでくる。この物語はそんな混乱さなかのウガンダに、医師として暮らしたイギリス(スコットランド)人の波乱の物語である。もちろんそうした歴史や一部登場人物は実在のものを借りて、そこに架空の主人公とストーリーを展開させたものだ。アミンという人物のカリスマ性、狂気、奇人ぶりが、この主人公の表現にはとてもユーモラスに綴られる。次々と巻き込まれる災難も、思わず苦笑をさそうような場面が多い。物語の後半から徐々に深刻な状況に追い込まれていくのだが、アミンとこの主人公である小心者の医師のコミュニケーションには、不思議と心の交流が生まれてくる。このあたりの雰囲気が微妙で非常に上手いなあと読んだ。
終末あたり、主人公が命からがら何とか難を逃れ、運良く故郷に帰ってきたところの描写は、淡々として実にいい。

変な感想と自覚しつつ、こんなとっても地味で売れそうにない小説を、翻訳出版してくれたことを、感謝したい気持ちになる。