2007-01-01から1年間の記事一覧

『心に龍をちりばめて』

『心に龍をちりばめて』白石一文著(角川書店)レビューには書いていなかったけれど、数ヶ月前には『永遠のとなり』が新刊として出ているので、思いがけない続けての新刊のリリースだった。新刊なので内容についての話は極力割愛します。 初期の頃と同じ角川…

『結婚の条件』小倉千加子著

『結婚の条件』小倉千加子著(朝日文庫)どこの何をきっかけに、この人、この本に行き当たったのか、すっかり忘れてしまった。社会学というのは、とても面白い学問だと思う。社会で起きている状況や現象を『なぜ』という部分から解き明かしていくこと。特に“…

『海と日傘』松田正隆作(あうるすぽっと)

平田満と竹下景子という組合わせ。 たまたま今年の春頃にNHKのドラマで『こんにちは、母さん』の中でちょっとした接点があったはず。その興味があったのと、東池袋に新しくできた劇場というのもあって、チケットを取ってみた。 松田正隆という人の脚本で…

『百万回の永訣』(柳原和子著)

『百万回の永訣 −がん再発日記−』柳原和子著(中央公論社)ガンという病気は、発見された部位や程度によるけれど、今ではもう一般的にも、決して治らない病気、という認識はなくなっていると思う。それでもやはり、もし自分に、あるいは自分の家族に、ガンと…

『草の花』福永武彦著

『草の花』福永武彦著(新潮文庫)こういう雰囲気の小説を読んだのは随分久しぶりのことだ。 大学生の頃に、何冊かこの著者の本を読んでいるのだが、ちょっとしんどかった記憶が残るだけで、内容に関してはまったく記憶していない。少し背伸びをした読書で、…

『沖で待つ』

『沖で待つ』絲山秋子著(文藝春秋社) 芥川賞受賞作。『勤労感謝の日』と『沖で待つ』の二つの作品による小説集。二編で一冊にはなっているけれど、長さとしては短編という印象だった。それでもこの二編が与えてくれる満足度(インパクトと言ってもいい)は…

『誰かに似ている』

『誰かに似ている』杉山隆男著(新潮社)ノンフィクションの書き手としては、確固たる地位を確立しているといっていいだろう。その氏の始めての小説集となる短編集である。女性誌に連載し、2002年に発行されているからもう5年ほど前のものだ。 確か1年…

『いつか読書する日』

見始めると、風景になにか見覚えがある。田中裕子が牛乳配達で駆け上がり、駆け降りる階段に白い縁取りがありその脇に白いパイプの手すりがある。そんな細い長い階段が続く風景は長崎の街だ。 実はワタシ、田中裕子のファンである。どこまで遡るかというと、…

『遠い朝の本たち』須賀敦子著(ちくま書房)

本、あるいは読書をめぐるエッセイである。実は時々読んでみようと、何度か手に取ったことのある著者の本なのだが、なかなか実際に読むには至らず今回読んだこの本が始めてだった。 1927年生まれというから、昭和2年、自分の母親と同じ世代である。とい…

『きれいな肌』(新国立劇場)

3週間ほど前の新聞に新国立劇場の広告が掲載されていて、ふと見かけて行ってみようという気になった。 パキスタンの作家の書き下ろし作品、“西洋社会におけるイスラム教”がテーマとなっていること、一度ナマで見てみたかった中島朋子という女優、そんなとこ…

『ブローティガンと彼女の黒いマフラー』

『ブローティガンと彼女の黒いマフラー』川西蘭著(トレヴィル)ブローティガンの小説はまだ読んでいない。ずっと気になってはいるものの、なかなか手をつけていない。 いつか読むつもりでいるうちに、同じように気になっていた、こっちの小説を先によむこと…

『対話の教室』

『対話の教室』橋口譲二・星野博美著(平凡社) −あなたは今、どこにいますか?−2000年に行った写真のワークショップについての記録。 写真のワークショップといっても、読み終えてみると、写真は目的ではなくて手段のほうだろう。目的は、たぶん、自分…

『イルカと墜落』沢木耕太郎著

『イルカと墜落』沢木耕太郎著(文藝春秋社)読んでいてまず思ったのは、文体がとても心地よいということだった。 ムダがなく、凝縮された言葉、しかし肩の力は抜けていて、柔らかい。ああ、いつかこんな文章が書けたらなあ、と思う。内容も面白く一気に読ん…

『うつせみ』

『うつせみ』キム・ギドク監督(2004年韓国)主人公となる男は、映画の中ではひと言も話さない。相手となる女は、ひと言『愛しているわ。』とだけ話す。そのほかの登場人物には会話があるが、印象としては、無言劇のような映画だ。比較的感情表現がオーバー…

『ミリオンダラー・ベイビー』

『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年米) (ネタバレ気にせず書くので、未見の方はご注意)なかなか見る機会がなく、ようやくDVDを借りて見ることになった。この映画については、誰もが言うラスト30分の意味が見る前からずっと気になっていた。見終わ…

『リトル・ミス・サンシャイン』(2006年米)

『リトル・ミス・サンシャイン』(2006年米)2007年度のアカデミー賞脚本賞を受賞した映画。 チラシには“ロードムービー”と書かれているが、そこはそれ、アメリカのロードムービーなので、小品といえども、スリルとサスペンスあり、ドタバタありの盛りだくさ…

『優しい子よ』大崎善生著(講談社)

4つの短編からなる小説集。タイトルにもなっている一編が冒頭に置かれ、内容的には最後に置かれた4つめの作品と呼応している。そして2・3番目の短編は、これはひとつの中編の前後編といった感じで読める。作者自ら私小説なのかノンフィクションなのか、…

『夏物語』(2006年韓国)

なんとなくありふれた感じ、と言えなくもないけれど、それを飽きさせずに見せるという部分では、よく出来ているという印象を持ちました。まだ上映中なのでネタバレは避けますが、一言で言えば、青春恋愛映画、と言ってしまえる内容です。主演のイ・ビョンホ…

『珈琲時光』(2003年日本)(ビデオ)

封切りの時に、確か新宿高島屋にある、テアトルタイムズスクェアでやっていたと思う。もともとアイマックスシアターだった、大きなスクリーンと傾斜のある座席の仕様がけっこう好きな映画館で、見たいなと思っていたのだが、結局見逃していた。 地味な作品だ…

『無名』沢木耕太郎著(幻冬社)

出だしの数行を読んで、自身のことについて書いた小説だろう、という印象を持って購入した。読み進めていくと、それには違いないのだけれどちょっと趣が違う。父親を看取るという、ある特別な出来事についての私小説であった。 この人の文章には、どの作品に…

『左腕の猫』藤田宜永著(文春文庫)

猫を小道具(?)に使った短編集。 実際にタイトルにもなった一編を読むまで、 “左腕(さわん)の猫”、と思っていたが、 勿論、よく考えればそんなはずはなく、 “左腕(ひだりうで)の猫”なのである。短編というと、無駄なものをできる限り 削ぎ落として成り…

『街道をゆく17』<島原・天草の諸道>司馬遼太郎著(朝日文庫)

冒頭の一文は次のようなものだ。『日本史のなかで、松倉重政という人物ほど忌むべき存在は少ない。』ここから一気にに引き込まれてしまうのは筆が熱いからだろう。 その熱さの底にあるのは“怒り”“憤り”の感情だ。理不尽なほど苛烈な年貢・租税の取り立てで、…

『海の仙人』絲山秋子著(新潮文庫)

出だしの“ファンタジー”の登場にはちょっと面食らう。 どうしてこんな奇異なものを、わざとらしいほどさりげなく登場させるのだ、という感じ。次第にその存在に馴染んでくると、重要で不思議なポジションではあるが、でも脇役だし、と感じられるようになって…