『蛍』

『蛍』吉村昭著(中公文庫)

9編の短編からなる短編小説集。

最初の一編を読み終えたところから、これは何なのだろう、という「微妙な違和感」のようなものを感じた。面白い、とか、つまらない、という感覚とは別の次元のもの、それが何なのだろう、何からくるものだろう、ということが気にかかるのだ。

最初の一編は『休暇』という短編。
刑務所の看守が主人公の物語。
子連れで再婚となる女性と結婚することになった男は、死刑執行の「支え役」という係りを自ら願い出て、一週間の特別休暇をもらう。そしてその休暇に家族3人で“新婚旅行”に出かける、という話。

淡々と描写だけで綴られていく物語は、読者に何かしらの決められた感情を強いない。最初は物足りないように感じたけれど、ひとつずつ短編を読み進むうちに、少しずつ慣れてくる。

ああ、よかった、と思える結末もなく、落とし前をつけるような展開にもならず、あっさりと途切れるように終わっていく短編は、様々な印象を残していく。
その残していくものが、普通の小説より、少し長くあとをひくようで、ひとつを読み終えても、すぐに次へ、と進ませない。

結局最初に感じた「違和感」については、最後の短編まで読み終えて、もう一度考え、それは「居心地の悪さ」なのではないかという思いに至った。