2004-01-01から1年間の記事一覧

『刑法三九条は削除せよ! 是か非か』呉智英・佐藤幹夫共編著(洋泉社)

たまたま本屋で本を見ていて目に付いて買った新書である。刑法三九条とは、【心神喪失及び心神耗弱】に関する条文で、第一項 心神喪失者の行為は、罰しない。第二項 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。となっている。 僕自身、やはりいくつかのニュース…

『走れメルス(少女の唇からはダイナマイト!)』Noda Map第十回公演

目くらましのように繰り出される言葉の洪水。ひとつひとつの言葉にどんな謎が隠されているのか、一言も聞き漏らすまいとそんなことを考えたら、もうこの数奇なものがたりに入り込んでいくことは出来なくなるだろう。表と裏の世界・あっち側とこっち側の世界…

『東京装置』小林紀晴著(幻冬社)

カメラマン&著者の小林さん自身にとっての東京、これは東京に出てきてから自分が住んだいくつかの場所についての思い出など、そして、東京に住むさまざまな人に取材した、その人たちにとっての“東京”を描き出したもの。ボクはいわゆる下町育ちではないけれ…

『リンダ・リンダ』KOKAMI@network Vol.6(シアター・アップル)

弾けるように活きのよい、テンポのある芝居だった。ミュージカルというよりは音楽劇という印象だ。全編ブルー・ハーツの曲をフィーチャーし、おハナシの展開と曲をミックスさせたところもよく出来ているし、どちからかというと、希望は残しつつもスッキリと…

『クラシックカメラ十二ヵ月』高斎正著(ゼスト)

何気なく図書館で手にとった本なのだけれど、てっきりエッセイだろうと思ったら小説だった。各月ごとに一台のカメラをモチーフにして作られた短編集である。登場人物がどんな人で何をしようと、ストーリーがどんなだろうと、実質的には主人公が“カメラ”であ…

『Asian Japanese1』小林紀晴著(新潮文庫)

先日『写真学生』を読んだ小林紀晴さんの写真と文章によるノンフィクション。いつも思ってしまうのだが、写真が撮れて、文章が書ける人は本当に羨ましいなあと思う。この本は写真のウェイトと文章のウェイトを比較すると、圧倒的に文章のウェイトのほうが大…

『海辺の小さな町』宮城谷昌光著(文春文庫)

先日紹介したカメラマンを主人公にした小説のひとつ。この前の『写真学生』と設定は似ていて、写真の専門学校ではないけれど、大学に入学した主人公がその入学祝に父親から送られたカメラで写真を撮り始めるという物語だ。歴史物(中国)で名を成した作家だ…

『イケニエの人』大人計画(世田谷パブリックシアター)

松尾さん自身、大人計画の劇団公演としては久しぶりの舞台(新作)ではなかったかな? かなり期待していただけに、今回は見終わったあと、う〜む、これはいったいどうしたのだ、という感想である。面白くなかったわけではないんだけれど、色んなモノが収まり…

『ア・ルース・ボーイ』佐伯一麦著(新潮文庫)

先日読んだ『一輪』の後に書かれた作品。何となく自分の中にある記憶では、このカタカタタイトルの小説ををトレンディっぽい感じの小説なのではないか、と、当時誤解していたように思う。今回読んでみると、まったくそういう印象と正反対のかなり骨太な感じ…

『写真学生』小林紀晴著(集英社文庫)

先日日記のほうに書いた、カメラマンが主人公の小説ということで、まず最初に書店で見つけたこの本から読み始めてみました。カメラマンが主人公というより、この本の場合は、カメラマンである著者が、自分の写真の専門学校時代のことを(私)小説的に書いた…

『一輪』佐伯一麦著(福武書店)

『一輪』、『ポートレート』という二つの中編からなる一冊。どちらも中編というよりも短編に近い印象もある。著者にとっては1990年に発表された、比較的初期の作品ということになるのだろう。先日読んでいた二冊よりかなり遡り、著者が東京で電気工事の…

『花伽藍』中山可穂著(新潮文庫)

5編の短編による短編集です。 今まで何冊か読んだ著者の小説の印象として、上手い作家ではないけれど、一気に読ませる不思議な魅力がある、というようなものを感じていました。説明し難いけれど、それがこの人らしいところで魅力なのだろうとも思っていまし…

『遠き山に日は落ちて』佐伯一麦著(集英社文庫)

色々読む本がたまっている中、この前読んだ『まぼろしの夏 その他』がとてもよかったので、ちょうど文庫の新刊で出たこの小説を読んでみました。この『遠き山に日は落ちて』は連作の短編のような形式の小説。3人の子供もありながら離婚した、小説家斎木と、…

THEATRE1010開館記念公演『楡の木陰の欲望』(THEATRE1010)

北千住の再開発された新しいビルに出来たホールに行って来た。といってもそれが目当てではなくて、勿論芝居そのもの、そして女優寺島しのぶ、演出ロバート・アラン・アッカーマンという取り合わせに興味を持っての観劇。ユージン・オニールという劇作家は、…

『まぼろしの夏 その他』佐伯一麦著(講談社)

以前からちょっと気になっていた作家なのだけれど、先日図書館でふと思い出し、何冊か中身を見て短編集であるこの本を借りてきた。予想していたよりもずっと地味な感じの小説であったことにまずちょっと驚いた。しかしその静かなで落ち着いた雰囲気は決して…

『薔薇の雨』田辺聖子著(中公文庫)

初めて読む田辺聖子である。といってもこれも先日の『戻り川心中』と同じく、光文社文庫の『別れの船』に入っていた『ジョゼと虎と魚たち』を読んで、これはいけそうだと思ったことから繋がる読書だった。もう一人身近なところでは、連れ合いにも勧められて…

『写真を見る眼』長谷川明著(青弓社)

“戦後日本の写真表現”というサブタイトルがついたこの本は、濱谷浩や土門拳、木村伊兵衛あたりから、森山大道、荒木経惟まで、15人の写真家の代表的な写真集をとりあげ、写真表現の歴史的な意義や位置付けなどを解説している。 ボク自身、本当の意味で写真…

『戻り川心中』連城三紀彦著(ハルキ文庫)

少し前になるけれど、ここにも書いた光文社文庫で宮本輝編集の『わかれの船』という、色々な人の短編を集めた本で、特に印象に残ったのが、連城三紀彦氏の『桐の柩』という作品だった。この短編が収録されているのがこの『戻り川心中』という短編集です。 元…

『赤鬼(タイ・バージョン)』 野田秀樹 作/演出(シアター・コクーン)

初演の時には見逃してしまったのだが、今回はジャパニーズ・バージョン、ロンドン・バージョン、タイ・バージョンの連続上演ということで、本当は勿論日本語(ジャパニーズ・バージョン)で見たかったのだけれど、チケットがとれたのはタイ・バージョンだっ…

『コウノトリの唄』(銀座シネパトス)

ベトナム人のスタッフによるベトナム戦争を描いたベトナム映画、という宣伝のことばに興味をそそられ足を運ぶ。ドキュメンタリーの部分とドラマの部分がいまひとつうまく消化されていない、という印象はあるが、ドキュメンタリーの部分に登場する人物が、ド…

『男性の好きなスポーツ』ナイロン100℃(本多劇場)

さて、男性の好きなスポーツって何でしょう? えっ? 野球? プロレス? 誰ですか、そんなカマトトぶった答えをしてるのは? 本多劇場に入り、タイムスケジュールを見ると、10分の休憩を挟んで一部、二部とも1時間35分、つまり正味上演時間だけで3時間…

『今夜、すべてのバーで』中島らも著(講談社文庫)

実は著者の作品を読むのは、小説・エッセイ含めまったく初めてのことです。ふと書店に平積みされているのを見かけ、先日の事故死のニュースが頭に浮かび、そういえばどんな本を書く人だったのかな、という興味とともに手にとったわけです。しかし読み始めて…

『十八の夏』光原百合著(双葉文庫)

先週の週末、ちょっと外出した折に立ち寄った書店で見つけた本である。小さな書店だったけれど、この文庫にはかわいらしいPOPがついていて、それに惹かれページをパラパラとめくってみたところなかなか面白そうで買ったものだ。 さて、この紹介の仕方はこ…

『その名にちなんで』ジュンパ・ラヒリ著(新潮クレスト・ブックス)

う〜ん、もう何と言ったらいいかわからない感動がのこる本です。最初の何ページかの読みにくさ(?)を過ぎるとあとはもう一気に最後まで読み通してしまいました。数年前河野多恵子さんが書いた『秘事』という小説があります。知っている人にはわかると思い…

『誰も知らない』(ワーナー・マイカル板橋)

1988年に起こったという「西巣鴨子供4人置き去り事件」を僕は記憶していない。16年前ということであれば多少なりとも記憶に残っていてもいいはずなのになぜだろう。「悲惨な事件」というファイル名で記憶にインプットされているものが、その後に次々…

『42nd Street』(新宿厚生年金会館)

初演が1980年、その後日本にきたのはいつのことだったのだろう。おそらく15年とかの昔になるのだろうが、このときに忘れもしないNHKで完全なテレビ放送されたものを見て、小さなテレビ画面ながらその素晴らしさに圧倒され、いつか本物を見たいと思…

『だれかのいとしいひと』角田光代著(文春文庫)

8編の短編からなる短編集。初めて読む作家である。どれもなんとなく後をひく余韻を残す不思議な味わいがある。童話作家から一般の小説へと幅を広げてきた作家らしく、文章は平易でどことなく童話っぽい感じもある。読み終わったあとに残る不思議な余韻のも…

『写真家のコンタクト探検』松本徳彦著(平凡社)

(“コンタクト”とは、所謂“ベタ焼き”のこと。) お手軽なカメラで、露出をカメラに頼ったり、あるいは露出もスピードもカメラに頼ったり、さらにはその上ピント合わせまでカメラに頼る、そういう写真の撮りかたに慣れていると、同じ被写体を何枚も写すという…

『旅するカメラ2』渡部さとる著(耷文庫)

時々日記の中でも紹介したワークショップの先生の著作。どれくらい前からなのか忘れてしまったが、僕にとっては、同じさるさる日記をつけておられたこの人の日記を読み始めたところから、ほんの小さなつながりが始まった。当初はカメラマンである渡部さんの…

『エレファント・バニッシュ』サイモン・マクバーニー演出(世田谷パブリック・シアター)

村上春樹の短編小説、「象の消滅」、「パン屋再襲撃」、「眠り」という3作品をモチーフに作られた舞台。オムニバスとしても見られるけれど、雰囲気を共有し合う連作のようなものとして、見るべきものだろう。 実は昨年の初演に続く再演なのだけれど、昨年は…