『Side-B』佐藤正午著(小学館)

お気に入りの佐藤正午さんの新刊ですが、これは小説ではなくエッセイ。といっても、競輪関連の新聞や雑誌に掲載された競輪ファン向けの文章ということになるかな。デビュー作の『永遠の1/2』からずっと書かれたものを読んでくると、この人と競輪は切っても切れない関係にあるのはわかるので、そのあたりの雰囲気がよく伝わってくる内容。

僕自身は、こういったギャンブル(いわゆる競馬・競輪・競艇など)はまったく経験がないのだけれど、それは、たぶん、その種のギャンブルを楽しめるようになるまでの根気が続かないだろうなと思うからだ。ギャンブルには、予想する楽しみがあって、それが的中するかどうかの興奮があって、的中したときの配当という楽しみがついてくる。しかし、それを楽しむに至るまでには、競技を知ることは勿論、選手(競馬で言えば馬そのもの)を知るという、事前のインプットが必要になる。そのインプットがあって始めて予想があり得るからだ。競輪という競技には、競馬で言う馬という不確かな要素が入らない分だけ、そのレースの中で行われる選手同士の駆け引きや、お互いの協力などを含めた展開を予測する楽しみが強いように思える。

このあたりの楽しさ、いわゆる勝っても負けても楽しんでいる様子がうかがえて、自分ではまったくやったこともない競輪というものについての文章だけど、それなりに面白く読むことが出来た。もっとも、本人だったら、“負けて楽しいなんて、そんな呑気なものじゃあない”と言われそうだけど……。