読書(小説)

『ラジ&ピース』

『ラジ&ピース』絲山 秋子著(講談社)テンポというかリズムというか、読んでいて非常に心地がよい文章だと感じる。 ストーリーにおいては、ほとんど何も特別なことは起きないけれど、物足りないと感じることもない。 自分の思うままの道を淡々と生きていく…

『蛍』

『蛍』吉村昭著(中公文庫)9編の短編からなる短編小説集。最初の一編を読み終えたところから、これは何なのだろう、という「微妙な違和感」のようなものを感じた。面白い、とか、つまらない、という感覚とは別の次元のもの、それが何なのだろう、何からく…

『風味絶佳』山田詠美著

『風味絶佳』山田詠美著(文春文庫)旅行には必ず本を持っていく。乗り物での移動には欠かせないものだ。特に飛行機では窓から景色を見る楽しみがないこともあって、本を読むことは多い。 このところしばらく読書らしい読書をしていなくて、軽めの読み易そう…

『オンリィ・イエスタディ』志水辰夫著(新潮文庫)

先日大腸内視鏡検査を受けることになり、事前に診察と予約、そして当日の注意点を聞いたところ、準備の時間が長いですから、読むものなどお持ちくださいね、と言われていた。あまり心地よい環境ではないかもしれないが、独りの時間を読書に費やすことができ…

『心に龍をちりばめて』

『心に龍をちりばめて』白石一文著(角川書店)レビューには書いていなかったけれど、数ヶ月前には『永遠のとなり』が新刊として出ているので、思いがけない続けての新刊のリリースだった。新刊なので内容についての話は極力割愛します。 初期の頃と同じ角川…

『草の花』福永武彦著

『草の花』福永武彦著(新潮文庫)こういう雰囲気の小説を読んだのは随分久しぶりのことだ。 大学生の頃に、何冊かこの著者の本を読んでいるのだが、ちょっとしんどかった記憶が残るだけで、内容に関してはまったく記憶していない。少し背伸びをした読書で、…

『沖で待つ』

『沖で待つ』絲山秋子著(文藝春秋社) 芥川賞受賞作。『勤労感謝の日』と『沖で待つ』の二つの作品による小説集。二編で一冊にはなっているけれど、長さとしては短編という印象だった。それでもこの二編が与えてくれる満足度(インパクトと言ってもいい)は…

『誰かに似ている』

『誰かに似ている』杉山隆男著(新潮社)ノンフィクションの書き手としては、確固たる地位を確立しているといっていいだろう。その氏の始めての小説集となる短編集である。女性誌に連載し、2002年に発行されているからもう5年ほど前のものだ。 確か1年…

『ブローティガンと彼女の黒いマフラー』

『ブローティガンと彼女の黒いマフラー』川西蘭著(トレヴィル)ブローティガンの小説はまだ読んでいない。ずっと気になってはいるものの、なかなか手をつけていない。 いつか読むつもりでいるうちに、同じように気になっていた、こっちの小説を先によむこと…

『優しい子よ』大崎善生著(講談社)

4つの短編からなる小説集。タイトルにもなっている一編が冒頭に置かれ、内容的には最後に置かれた4つめの作品と呼応している。そして2・3番目の短編は、これはひとつの中編の前後編といった感じで読める。作者自ら私小説なのかノンフィクションなのか、…

『無名』沢木耕太郎著(幻冬社)

出だしの数行を読んで、自身のことについて書いた小説だろう、という印象を持って購入した。読み進めていくと、それには違いないのだけれどちょっと趣が違う。父親を看取るという、ある特別な出来事についての私小説であった。 この人の文章には、どの作品に…

『左腕の猫』藤田宜永著(文春文庫)

猫を小道具(?)に使った短編集。 実際にタイトルにもなった一編を読むまで、 “左腕(さわん)の猫”、と思っていたが、 勿論、よく考えればそんなはずはなく、 “左腕(ひだりうで)の猫”なのである。短編というと、無駄なものをできる限り 削ぎ落として成り…

『海の仙人』絲山秋子著(新潮文庫)

出だしの“ファンタジー”の登場にはちょっと面食らう。 どうしてこんな奇異なものを、わざとらしいほどさりげなく登場させるのだ、という感じ。次第にその存在に馴染んでくると、重要で不思議なポジションではあるが、でも脇役だし、と感じられるようになって…

『彌太郎さんの話』山田太一著(新潮文庫)

このところめっきりシナリオ作品が少なくなったけれど、この人についてはわりと小説も好き。最近はどちらかというとドラマのシナリオが説教くさい部分がちょっと気になったりするので、しばらくは小説一本でもいいのかも、と思ったりもする。といいつつこの…

『クラシックカメラ十二ヵ月』高斎正著(ゼスト)

何気なく図書館で手にとった本なのだけれど、てっきりエッセイだろうと思ったら小説だった。各月ごとに一台のカメラをモチーフにして作られた短編集である。登場人物がどんな人で何をしようと、ストーリーがどんなだろうと、実質的には主人公が“カメラ”であ…

『海辺の小さな町』宮城谷昌光著(文春文庫)

先日紹介したカメラマンを主人公にした小説のひとつ。この前の『写真学生』と設定は似ていて、写真の専門学校ではないけれど、大学に入学した主人公がその入学祝に父親から送られたカメラで写真を撮り始めるという物語だ。歴史物(中国)で名を成した作家だ…

『ア・ルース・ボーイ』佐伯一麦著(新潮文庫)

先日読んだ『一輪』の後に書かれた作品。何となく自分の中にある記憶では、このカタカタタイトルの小説ををトレンディっぽい感じの小説なのではないか、と、当時誤解していたように思う。今回読んでみると、まったくそういう印象と正反対のかなり骨太な感じ…

『写真学生』小林紀晴著(集英社文庫)

先日日記のほうに書いた、カメラマンが主人公の小説ということで、まず最初に書店で見つけたこの本から読み始めてみました。カメラマンが主人公というより、この本の場合は、カメラマンである著者が、自分の写真の専門学校時代のことを(私)小説的に書いた…

『一輪』佐伯一麦著(福武書店)

『一輪』、『ポートレート』という二つの中編からなる一冊。どちらも中編というよりも短編に近い印象もある。著者にとっては1990年に発表された、比較的初期の作品ということになるのだろう。先日読んでいた二冊よりかなり遡り、著者が東京で電気工事の…

『花伽藍』中山可穂著(新潮文庫)

5編の短編による短編集です。 今まで何冊か読んだ著者の小説の印象として、上手い作家ではないけれど、一気に読ませる不思議な魅力がある、というようなものを感じていました。説明し難いけれど、それがこの人らしいところで魅力なのだろうとも思っていまし…

『遠き山に日は落ちて』佐伯一麦著(集英社文庫)

色々読む本がたまっている中、この前読んだ『まぼろしの夏 その他』がとてもよかったので、ちょうど文庫の新刊で出たこの小説を読んでみました。この『遠き山に日は落ちて』は連作の短編のような形式の小説。3人の子供もありながら離婚した、小説家斎木と、…

『まぼろしの夏 その他』佐伯一麦著(講談社)

以前からちょっと気になっていた作家なのだけれど、先日図書館でふと思い出し、何冊か中身を見て短編集であるこの本を借りてきた。予想していたよりもずっと地味な感じの小説であったことにまずちょっと驚いた。しかしその静かなで落ち着いた雰囲気は決して…

『薔薇の雨』田辺聖子著(中公文庫)

初めて読む田辺聖子である。といってもこれも先日の『戻り川心中』と同じく、光文社文庫の『別れの船』に入っていた『ジョゼと虎と魚たち』を読んで、これはいけそうだと思ったことから繋がる読書だった。もう一人身近なところでは、連れ合いにも勧められて…

『戻り川心中』連城三紀彦著(ハルキ文庫)

少し前になるけれど、ここにも書いた光文社文庫で宮本輝編集の『わかれの船』という、色々な人の短編を集めた本で、特に印象に残ったのが、連城三紀彦氏の『桐の柩』という作品だった。この短編が収録されているのがこの『戻り川心中』という短編集です。 元…

『今夜、すべてのバーで』中島らも著(講談社文庫)

実は著者の作品を読むのは、小説・エッセイ含めまったく初めてのことです。ふと書店に平積みされているのを見かけ、先日の事故死のニュースが頭に浮かび、そういえばどんな本を書く人だったのかな、という興味とともに手にとったわけです。しかし読み始めて…

『十八の夏』光原百合著(双葉文庫)

先週の週末、ちょっと外出した折に立ち寄った書店で見つけた本である。小さな書店だったけれど、この文庫にはかわいらしいPOPがついていて、それに惹かれページをパラパラとめくってみたところなかなか面白そうで買ったものだ。 さて、この紹介の仕方はこ…

『その名にちなんで』ジュンパ・ラヒリ著(新潮クレスト・ブックス)

う〜ん、もう何と言ったらいいかわからない感動がのこる本です。最初の何ページかの読みにくさ(?)を過ぎるとあとはもう一気に最後まで読み通してしまいました。数年前河野多恵子さんが書いた『秘事』という小説があります。知っている人にはわかると思い…

『だれかのいとしいひと』角田光代著(文春文庫)

8編の短編からなる短編集。初めて読む作家である。どれもなんとなく後をひく余韻を残す不思議な味わいがある。童話作家から一般の小説へと幅を広げてきた作家らしく、文章は平易でどことなく童話っぽい感じもある。読み終わったあとに残る不思議な余韻のも…

『萩の雨』連城三紀彦著(講談社文庫)

6つの短編からなる短編集。いずれもテーマは旅路と恋愛。場所も、萩、柳川、会津、盛岡、北京、輪島とあちこちにとびます。その場所の風情を背景にしながら、旅路にあるほんのひとときの男と女の物語が作られているのですが、どの短編も程よく後をひく余韻…

『個人教授』佐藤正午著(角川文庫)

再読ですが、なんだか最初と随分印象が違ったように思います。最初に読んだときは、ちょっと軽めの文章のタッチやコミカルでユーモラスな印象を強く持ったのだけれど、改めて読んで見ると、なんだか切ないセンチメンタルな青春小説という印象でした。どうし…