『眠れるラプンツェル』山本文緒著(幻冬社文庫)

別に私小説でもない。実話でもない。完全なるフィクションだ(と思う)。しかし作家というのは普通の人がどうしてもとっぱらってしまうことの出来ない理性やモラルや羞恥心といったものを、取っ払ってしまったところで仕事をするのだなあ、と、この本を読んでいてつくづく思いました。なにも当たり前のことなんだけど、ストーリーや表現などに、何かそういう感覚的なスゴさみたいなものを感じます。

一本だけCMモデルとして仕事をした“わたし27歳(主人公)”が、ディレクターであった男と結婚し家庭に入る。男は仕事を理由にほとんど家には帰らず、女はほとんど一人暮らしのような生活をマンションで続けている。パチンコ、生協、近所づきあい、ペットのネコ・・・、そういったものと関わりながら過ぎていく暮らしの中に、隣家の15歳年下の男の子と15歳年上のその父(実父ではない)が入ってくる。そう、まったくヘンな人間関係なのだけれど、とても微妙なバランスなのだ。

心の中で思ったことなどが、ポロッと表現されているところなど、“わたし”の語る文章の雰囲気がとにかく絶妙です。