『精神科に行こう』大原広軌著 藤臣柊子(マンガ)(文春文庫)

副題に“心のカゼは軽〜く治そう”とついた、まあ言うなれば軽〜い心の病の治療体験記みたいな本である。う〜ん、この人たちは心を病んだ経験者なのか、と思うと、文章や、各章ごとに挿入されるマンガの妙にハイテンションなところも、それとなくうなずいてしまいそうなところがちょっとコワくもある。

それにしても最近思うのは、正常とそうでない状態の差というのはそんなにはっきりしたものではないのだろうな、ということだ。病院に入院するなんていうレベルになれば、それはそれでちょっと社会生活に支障をきたすという理由があるからなのだろうけれど、じゃあ、病院に通っているのはどうなのか、あるいは行ってない人はみな正常なのか、というとそれはそれで、かなり怪しいような人にもそこここで出合うのが現実だ。特に電車の中とかエレベータの中、雑踏の中なんていうのはけっこう恐かったりする。

正常って何なんだ、ということも明確な定義がない以上、アンタはどうなんだ? と言われると『ボクは正常です。』なんて胸はって言えるわけでもない。しかも一般的には正常と回りから思われている人が、何らかのストレスによって、正常という範囲を逸脱していくことも往々にしてあるわけである。

そこで、この本なのですが、そういうレベルで、正常からちょっとはみ出してしまいそうになったとき、そんな自覚があるウチに、ためらわずに精神科の医者にドンドンかかりなさい、と勧めている本です。昔は頭の骨に穴を空けちゃって治療したりしてた病気が、今は薬でよくなるというような時代なのだろうなあ、とつくづく感じました。おもしろオカシク書かれているのだけれど、やっぱりなんとなくコワいのは、たとえ薬でかなりの改善が可能になったとは言え、心の病というものの正体が今だつかめないという現実があるからだろうな、と思うのです。