2003-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『百年目の帰郷』 鈴木洋史著 (小学館文庫)

プロ野球のホームラン世界記録を持ち、現在ダイエーの監督でもある王貞治氏にまつわるノンフィクションである。王監督について、というよりはその父親である王仕福さんの出自から追っていった家族の歴史という言い方のほうがぴったりくるかもしれない。戦前…

『ビコーズ』佐藤正午著(光文社文庫)

何度も繰り返し読める小説というのは、ストーリーを追う面白さ以外の、その小説の雰囲気に浸る心地よさのようなものがあるのだと思う。そして僕は、この『ビコーズ』という小説の持っている、何ともやるせないような、切ないような、気だるく、物悲しく、そ…

『この人の閾(いき)』保坂和志著(新潮社)

初めて読む作者の小説というのは、色々な意味で手探りの状態なので、ストーリーを追っていく以外にも、雰囲気や感覚、表現の特徴など様々な部分を、まるでネコが新しい部屋の匂いを嗅ぎまわるように把握していくようなところがある。で、この小説なのだが、…

『水曜の朝、午前三時』蓮見圭一著(新潮社)

読み始めたら、一気に最後まで行ってしまいます。また、そういう読み方をするのにもっとも適した本と言っていいかもしれません。ただ、何が良かったのかということになると、とても曖昧な言い方だけれど、この小説の持っている雰囲気、と言うのが一番近いか…

『合鍵の森』末永直海著(光文社)

ブックオフの100円本コーナーで、何気なく手にとって買ってみた。勿論著者名も知らず、ただ真っ赤なカバーの色とタイトルに目がとまり、開いてみたのだ。 書き出しの文章が、“男はなかなか少年をやめないが、女はすぐに少女をやめてしまう。それはなぜだ…