2004-01-01から1年間の記事一覧

『桶川ストーカー殺人事件 −遺言− 』清水 潔著(新潮文庫)

事件が起きたのが1999年10月のこと。もう4年以上の歳月が流れたことになる。週刊誌や夕刊紙など、こうした事件を大きめに扱うメディアにはまったく目を通していなかったので、とある女子大生が元交際相手にストーカー行為をされ殺されてしまったこと…

『時の物置』永井愛脚本(世田谷パブリック・シアター)

最近では最も楽しみにしている、といってもいい永井愛脚本の芝居。これも再演ということになるのだそうだけれど、僕自身は今回初めて見ました。昭和30年代の中ごろを舞台に、とある家族の生活を描いたものです。士族の出である母親、教師をしつつ文学を志…

『萩の雨』連城三紀彦著(講談社文庫)

6つの短編からなる短編集。いずれもテーマは旅路と恋愛。場所も、萩、柳川、会津、盛岡、北京、輪島とあちこちにとびます。その場所の風情を背景にしながら、旅路にあるほんのひとときの男と女の物語が作られているのですが、どの短編も程よく後をひく余韻…

『ロスト・イン・トランスレーション』(新宿武蔵野館)

映画館で映画を見るのは、どれくらいぶりだろうか。この映画のことは、あちこちで断片的に情報があって、見てみたいと思っていた。雨の日曜日、新宿武蔵野館のモーニング・ショーはわりと年齢層も高い感じで、ひっそりとした雰囲気。映画はというと、強いメ…

『個人教授』佐藤正午著(角川文庫)

再読ですが、なんだか最初と随分印象が違ったように思います。最初に読んだときは、ちょっと軽めの文章のタッチやコミカルでユーモラスな印象を強く持ったのだけれど、改めて読んで見ると、なんだか切ないセンチメンタルな青春小説という印象でした。どうし…

『4U』山田詠美著(幻冬社)

先日読んだ『マグネット』に続いて読む山田詠美さんの短編集。山田詠美さんってこんなに上手かったか、と思わずため息が出ます。もともとちょっと不思議な感覚的文章だとは思っていたけれど、この短編集はどれをとっても、最後の文章を読み終えると“う〜ん”…

『ドライブイン・カリフォルニア』大人計画(日本総合悲劇協会)(本多劇場)

猥雑さ、透明感、リラックスしたちょっと緩い笑い、物悲しさ、悲壮感・・・。色々な感情や感覚がないまぜになって混沌とした舞台が進行していく。そしてなぜか不思議なことに、その雰囲気が全編を通した印象では完成度の高さとして感じられる不思議な舞台だ…

『吉行淳之介エッセイ・コレクション2』荻原魚雷編(ちくま文庫)

ちくま文庫で全4巻で刊行が始まった吉行淳之介エッセイ集の2巻、副題として“男と女”が付いている。 自己紹介のところで、好きな作家にもあげているのだけれど、こうして書いたものを読むのは随分と久しぶりのことだ。 僕が本(小説)に興味をもってから、…

『もうひとつの季節』保坂和志著(朝日新聞社)

1998年の秋、朝日新聞の夕刊に連載された小説ということだ。僕は実のところ今まで新聞の連載小説というものを読んだことがない。文芸誌なども決まって購読しているものはないので、雑誌の連載小説というのも読んだことがない。どうもそういう読み方が出…

『ハルシオン・デイズ 〜もうひとつのトランス〜』鴻上尚史作・演出(紀伊国屋ホール)

元祖(?)『トランス』はどれくらい前だったか、あまりはっきりした記憶がないのだけれど、一応初演と再演と2回とも見ているが、もう少し多様で複雑なストーリーだったような感じがする。今回の『ハルシオン・デイズ』は“〜もうひとつのトランス〜”という…

『夜の果てまで』盛田隆二著(角川文庫)

『夜の果てまで』というタイトルは文庫化にあたっての改題ということのようです。単行本出版時は『湾岸ラプソディ』というタイトルだったようですが、どことなく甘酸っぱいような、あるいは明るい雰囲気も感じる"湾岸ラプソディ"よりは、『夜の果てまで』の…

『二十世紀を見抜いた男 マックス・ヴェーバー物語』長部日出雄著(新潮社)

奥付を見ると2000年7月となっている。多分その頃に買った記憶はあるので4年越しの読書ということになる。といっても買ってすぐに五分の一ほどまで読んで、そのまま放置。今回改めてまた最初から読み直して読了というわけだから、積読が長かったという…

『フリドニア日記』猫のホテル(本多劇場)

昨年初めて見たナイロン100℃の『ハルディン・ホテル』という舞台が、ちょっと不思議な感じで、この人の脚本をもう少し見たいと思っていたので、今回、劇団や演出は異なるものの、台本がケラリーノ・サンドロビッチということで、見てみました。ナンセンスと…

『透明人間の蒸気』野田秀樹作・演出(新国立劇場)

先日の日曜日に続いての新国立劇場だが、今回は中ホール。 出し物は懐かしい夢の遊眠社時代の『透明人間の蒸気』。初演は1991年の後半ということだが、内容はほとんど忘れてしまったものの、確かに見たという記憶だけは残っていた。 冒頭の台詞で、目が…

『見えないドアと鶴の空』白石一文著(光文社)

まず、ひと言感想を言うと“不思議”な小説だ。今までの作品にある、著者らしい“真面目さ”を持ちつつ、今回はリアルなものを離れて新しい表現に挑戦している。しかしそれを違和感なく読めたのは、やはりこの人ならではの力強さのようなものだろうと思う。スト…

『こんにちは、母さん』永井愛作(新国立劇場)

下町風の縁側のある日本家屋の茶の間。左側階段がしつらえてあり、その上には2階の物干し場。右手の壁沿いに三軒の2階部分がひしめくように並ぶセット。暗転してビートルズの“抱きしめたい”が流れるオープニング。前回見た萩家の三姉妹の出だしが、ぴんか…

『欠陥住宅物語』斎藤綾子著(幻冬社)

ずい分と昔だが、(ネットで調べてみたところ1990年)この人の小説で、けっこう話題になった『愛より速く』という小説を読んだことがあった。女性が性欲やセックスなどについて赤裸々な文章を綴るという意味では、けっこう先駆的な作家であって話題にも…

『その場しのぎの男たち』東京ボードヴィルショー(東京芸術劇場)

池袋の東京芸術劇場はクラシック専門(だったと思う)の大ホールも小ホールも行ったことがあったが、中ホールというのは今回始めてだった。しかし、お役所(自治体)が立てたこうしたホールの中ホールというのは、新国立劇場もそうだが、これで“中”かい、と…

『血い花』室井佑月著(集英社文庫)

血い花(あかいはな)と読みます。先日読んだ『Piss』より少し前に書かれた短編集。『Piss』は意識的にポップというか、今ふうな感じを意図的に書いたようなところがあったけれど、この中にある短編は、それよりはもう少しだけ文学的な匂いが強い。 …

『アメン父』田中小実昌著(河出書房新社)

保坂和志さんからの本繋がりの読書である。 田中小実昌サンは、昭和54年の上期の直木賞を『香具師の旅』という作品集に収録された短編で受賞している。ボクが田中小実昌サンの本を読んだのは、その後の数年間のことで、4〜5冊程度だったように記憶してい…

『Piss』室井佑月著(講談社文庫)

先日、新聞に載っていたとある書評を読んで、ちょっと興味を持ったので読んでみました。といっても、書評の本はエッセイだったので、やはり最初は小説を読んで見なくては、ということで身近な書店で見つけたのがこの本だったということで、特別この本である…

『カンバセーション・ピース』保坂和志著(新潮社)

長い本です。ページ数(字数)としての長さもさることながら、この人特有の饒舌体、しかもけっこうまわりくどくダラダラと書いていく感じがますますそういう印象を持たせるので、さらに実際の何倍も長く感じるわけです。しかし面白くないというわけではない…

『ワニを素手でつかまえる方法』第3回タ・マニネ公演(PARCO劇場)

今年に入って初めての観劇。この芝居が見てみたいと思ったのには、三つほど理由がある。ひとつは小林薫という人をナマで見てみたかったこと。二つ目は同じく緒川たまきという人をナマで見てみたかったこと。そして三つ目は岩松了という人の脚本の芝居を見て…

『生きる歓び』保坂和志著(新潮社)

昨年始めて読んだ芥川賞受賞作の『この人の閾』は、なんかこう面白いのかどうか今ひとつ判り難いヘンな印象だった。自分の中でまだ判断が出来ていない状態だったので、今回もふと見つけて手にとってしまったのだが、これはよかったです。この本は『生きる歓…

『ファントム・ペイン』鴻上尚史著(白水社)

2001年の9月に公演された、第三舞台の10年封印前の最後の作品の戯曲。 この舞台は、勿論見ていたが、ホームページを始める少し前であったので、実際に感想文を書いてはいたもののレビューに掲載することはなかった。パソコンの古いデータから探し出し…

『猫背の王子』中山可穂著(集英社文庫)

1993年に刊行された著者のデビュー作。一度絶版になっていたところを2000年に文庫化されたものらしい。既に2作品を読んでいるのだけれど、この小説は勢いで書いたようなパワー、エネルギーに圧倒される感じ。 自伝的ということでは必ずしもないよう…

『葉桜の季節に君を想うということ』歌野晶午著(文藝春秋)

タイトルから想像するに、もうちょっとロマンティックな雰囲気を考えていたのだけれど、その期待はちょっと裏切られます。どっちかというと、完全にエンタテイメント寄りの現代ミステリーという感じの小説でした。 ミステリー系でもあるし内容について書くの…

『玉蘭』桐野夏生著(朝日新聞社)

作品の順序としては、『光源』と『ダーク』の間にくる作品である。 作者自身の失踪した大伯父をモチーフにして、様々な時間の中でいくつかの物語が進行するという、少々複雑な構造をもった小説と言えるかもしれない。一章ごとに異なる主人公(視点)、そして…

『銭湯の女神』星野博美著(文春文庫)

エッセイらしいエッセイと言えるだろう。初めて読んだ著者だけれど、年齢の割にとってもまっとうな意見を述べているエッセイだと思った。 今の世の中、色々なことが多様化してきて、いわゆる“普通”の感覚というものが明確でなくなってきているようなところが…

『邪恋』藤田宜永著(毎日新聞社)

直木賞受賞第一作とのこと。う〜む、なんと言ったらいいのでしょうか。とことん書き尽くしたという感があります。大人の、そして既婚者の恋愛について・・・。 いわゆる不倫小説ってヤツは、モラル的には社会的なルールを逸脱しているわけですが、恋愛という…