『夜の果てまで』盛田隆二著（角川文庫）

『夜の果てまで』というタイトルは文庫化にあたっての改題ということのようです。単行本出版時は『湾岸ラプソディ』というタイトルだったようですが、どことなく甘酸っぱいような、あるいは明るい雰囲気も感じる"湾岸ラプソディ"よりは、『夜の果てまで』の方が小説の雰囲気に合っていると感じます。
この本を読むきっかけとなったのは、お気に入りの"佐藤正午氏も推薦"（あとがきも書いている）というキャッチ・コピーなのですが、どことなく"蒸発もの"としての『ジャンプ』を思い出させるところもあったりします。とはいえミステリアスなところが売りだった『ジャンプ』に対して、こちらの『夜の果てまで』は、もうちょっと現実的な恋愛そのものがテーマとなっていると言えるでしょう。

恋愛そのものについては、とりたてて珍しい設定でもありません。オトコのほうは大学生、オンナの方は人妻。そのとりたてて珍しくない恋愛関係を、一気に読ませるストーリーに仕上げたのは作者の腕で、また、オトコが頼りない、なんていう感想を持つのも、そのほうが現実的であるという作者の意図なのでしょう。
最後まで読み終えたあと、ほぼ間違いなく冒頭の部分にもどって読み返すであろう唯一の仕掛けも、奇を衒ったカンジがなくてよいですね。
この作家のその他の小説がどんな雰囲気なのかわかりませんが、これは読まずにいられないな、という気持ちになってます。