『ロスト・イン・トランスレーション』(新宿武蔵野館)

映画館で映画を見るのは、どれくらいぶりだろうか。この映画のことは、あちこちで断片的に情報があって、見てみたいと思っていた。雨の日曜日、新宿武蔵野館のモーニング・ショーはわりと年齢層も高い感じで、ひっそりとした雰囲気。

映画はというと、強いメッセージもなく、社会的な題材とも縁遠く、こじんまりとした作品という印象。好みとしては好きな雰囲気の作品で、大変面白かった。実は少し前に朝日新聞沢木耕太郎氏の批評が載っていたのだが、これがかなりの酷評であって、それを自分なりに見て確かめてみたいという気持ちもあった。その批評はというと(記憶で書くので多少曖昧だと思うが)、異文化、異人種を理解しようとしない、コミュニケート出来ない・理解できない原因をその文化と人種のせいにする、アメリカ人の特質が現れた映画ではないか、というような内容だったと思う。

僕自身はこの映画を見て、そういう感覚はほとんど感じなかった。というか、この映画そのものの描こうとしたもの(主題)がそういうものではないと思うのだ。これはアメリカ人が日本を旅する(あるいは仕事で訪れたアメリカ人の)ロード・ムービーのようなものだろうし、結婚25年の倦怠期にある中年男性と、結婚2年目の倦怠期にある若い女性を主人公に、その心理や交流を通じて沸き出でる淡い恋愛感情を描いたものだと思う。

タイトルに表されたような、言葉による意思疎通の不完全さや、確かに現在の日本のヘンな部分というのが面白おかしく描かれている場面はあるけれど、そういったヘンな部分をヘンと思う日本人(である僕)としては、そういう描写に違和感を感じるようなところはなかった。

さて、この主演女優だったスカーレット・ヨハンソンという人。この映画の雰囲気にぴったりで、とてもよかった。どういう内容だったかは書けないが、ラスト・シーンがとても印象的で心に残るし、そのラスト・シーンでの表情は何ともいえない表情だけで見せる演技だったと思う。