『邪恋』藤田宜永著(毎日新聞社)

直木賞受賞第一作とのこと。う〜む、なんと言ったらいいのでしょうか。とことん書き尽くしたという感があります。大人の、そして既婚者の恋愛について・・・。
いわゆる不倫小説ってヤツは、モラル的には社会的なルールを逸脱しているわけですが、恋愛という部分について言うと、逆にとても純粋な印象を受けるようなものが多いと思うのですが、この小説はそういう今までのパターンをとことん粉砕するような、もっと生々しい欲望や感情が渦巻いている人間の姿をありのままに描いている感じを受けます。
それが本当の人間の姿だと言えなくはないけれど、よくぞここまで書いたという印象は持ちました。とにかく半分くらいまで読み進んだところで、いったいこの先どこまで続くのかと思えるほど、深く深く突き進んでいく展開です。

駆引きあり、打算あり、嫉妬あり、策略あり、とにかく心の中の醜い部分をこれでもかと見せ付けて、それでも開き直って異性を求める様は、読んでいてちょっとしんどくなるところもありました。この年齢でこそわかる部分もあると思うのですが、たとえば20代とかで読んだとしたら、大人の恋愛って恐ろしいと思いかねない迫力さえあります。
決してハッピーに終わらない、苦い印象のエンディングも、そんな小説に相応しいと思えるものです。