『桶川ストーカー殺人事件 −遺言− 』清水 潔著(新潮文庫)

事件が起きたのが1999年10月のこと。もう4年以上の歳月が流れたことになる。週刊誌や夕刊紙など、こうした事件を大きめに扱うメディアにはまったく目を通していなかったので、とある女子大生が元交際相手にストーカー行為をされ殺されてしまったこと、そして彼女が生前警察にも事情を説明していたのに、まったく取り合わなかったため、警察側の対応にも批判が集中した、というその程度の知識しかない状態で、この本を読み始めた。

さてしかし、その内容たるや、読み始めると、驚き、怒りや憤り、哀れみなど・・・、とにかく様々な心情で胸がざわざわとしてくる。何よりも切ないのは、最後の助けを求めるつもりで警察へ駆け込んだ被害者の女性が、まったくまともに訴えを取り上げてもらえずに、絶望と失意の中に置かれ、さらに彼女が恐れていた通りの状況で命を奪われてしまうというこの上ない悲惨さである。
もしかしたら、そのまま取り上げられもせず、うやむやに闇に葬られてしまったかもしれない、この事件を闇から引きずり出し、その裏側まで暴いたのは、今は廃刊となってしまったFOCUSという写真週刊誌の数人の記者とカメラマンであった。これはそのFOCUSのスタッフが事件の全容をまとめたノンフィクションである。もしも彼らに偶然訪れたそのきっかけがなかったら、この事件は世の中にはまったく別の状況で語られるものとなっていたのだろうとも想像できる。そのことも考えるだに恐ろしいことだ。

どこの警察もこうであるとは思いたくない。しかし、現実にこういう警察があるのだ、あったのだ、そしてそのために失わずに済んだかもしれない命を落とした人がいるのだ、ということは知っておくべきだろうと思う。とにかく、色々な意味で、この本を読んでみることを多くの人に薦めたい。