『ああ、結婚』永倉萬治著(集英社)

どれを読んでも同じよう、と言ってしまうと、よい意味で受け取られないかもしれないけれど、この人の数多くの短編集について僕が思うのは、どれも同じようだけれど、なんかどれを読んでもホンワカとして雰囲気がよいという好意的な意味である。

この短編集は、どれもがタイトルにあるように“結婚”というものをめぐる様々な短編を収めたもの。この人の小説を読んだことのある人ならばわかると思うが、どの作品も、ちょっとダメで頼りなくて、でも、あんまり頑張ろうなんて思わず、肩の力をぬいて気楽に行こうよ、っていう感じの男が主人公である。年齢にはちょっと幅があるけれど、人生を山に例えると、一応ピークは過ぎて下りに入った人ということは言えるだろう。

そういう男がツマ以外の女性と関わり、生活にちょっとした波風が立つというお話である。恐らくは著者自身の女性の好みではないかと思うのだけれど、この人の小説に出てくる女性もなんとなくイメージが共通している。ツマとして登場するのではなくて、いわゆる浮気の相手として登場する女性についてなのだが、まずはポッチャリした胸の大きい女性という身体上の特徴がある。性格的にはホンワカとしていたりちょっとキツかったりと色々だが、意図するしないにかかわらず男を絡めとって離さない悪女的なところがある、そんな女性だ。
ダメな男が浮気相手の女に絡めとられてしまうのだから、これは傍から見れば面白いシチュエーションだ。ちょっとドキドキしたり、ヒヤヒヤしたり、幸せな気持ちになったり・・・、主人公の心のままに読み進んでいく楽しさがある。
亡くなってしまったから思うわけではなくて、本当にまだまだたくさん、この人のこんな小説を読みたかったなあ、と思う。