『ベトナムの人』板垣真理子著(三五館)

昨日、ブックオフの100円本コーナーを端から端までながめていった中で、“ベトナム”のタイトル文字に目をとめパラパラとめくってみたら面白そうで買ってみた本。こんなふうに見つけた本がよい本だととっても得をした気になる。

1996年発行と、いささか古いことはあるが、ノンフィクション(あるいはルポルタージュ)として、とてもしっかりした本であると感じた。まったく知らなかったのだけれど、著者はカメラマンとしても有名であるらしい、板垣真理子さんという方。バリ、アフリカ、そしてキューバなど様々な国を旅しながら写真をとりエッセイを書くというスタイルの本を出し続けているようだ。

この本では、本文の中に著者撮影のカラー写真のグラビアページが3箇所ほど入り、ベトナムのさまざまな人と出会う体験が綴られている。写真も被写体はほとんどが人物、文章もさまざまな社会背景をもった人物に焦点があてられている。何よりも感心したのは、その一人ひとりの対象に向き合う姿勢の真面目さと誠実さといったらよいだろうか。こんなに気を使って取材を続けていって大丈夫なんだろうか、と思うほどに繊細な感情をもって接するさまは、しかし、実際にはとてもしたたかで強力な精神に支えられているのかもしれないと思う。色々な話からにじみ出てくるようなその対象となった人物の姿が、どれも本当に魅力的に語られている。
ベトナムについては色々な本も読んだけれど、この一冊は今まで読んだどんな本よりも、よい意味でディープな魅力に満ちている。文章に散りばめられたさまざまなヒントを手がかりに、僕自身ももっとディープなベトナムの魅力を探していってみたいと思ったのだった。