『新版 貧困旅行紀』つげ義春著(新潮文庫)

マンガもいいけれど、この人の書くものには文章にも独特の味わいがあって好きだ。昔からポツポツとは読んでいたのだけれど、数年前、新潮文庫から3冊にまとめられた漫画が出て、気が向くと何度も読み返したりしている。『無能の人』などは、本当に何度読んでもしみじみとしていい。
この旅行記も、日本各地のひなびた宿場や温泉などをめぐる、何ともいえないしみじみとひなびた味わいのある旅行記だ。文章に添えられた筆者自らの手による写真も、雰囲気がよく伝わってきていい。
放浪するように、蒸発するように、隠遁するように、侘しいところへと自分を向かわせる行動が、その感情とともに素直に表現されていて、寂しさのような感覚が胸に響いてくる。
今はどんな暮らしをしているのだろう。旅は続けているのだろうか。続けているとすれば、どこをどんなふうに旅しているのだろう。