『樹下の想い』藤田宜永著(講談社文庫)

著者にとって大人の恋愛小説というジャンルに踏み込んだ最初の作品ということになるようだ。ちょっと特殊な世界(花材と花道)を舞台に、長い年月にわたる秘めた想いをじっくりと描いた読み応えのある小説だと思う。

前にも書いた(かどうだか忘れた)けれど、不倫小説の醍醐味は、その秘められた思いをどれだけ抑え、隠し、我慢するかというストリップ・ティーズのような“じらし”に込められている。そしてハードボイルド小説のクライマックスのように、最後の最後で爆発する想い(すなわち結ばれるところ)が、何とも言えない解放感としての盛り上がりとなるのである。

そういう意味からすると、この小説は憎いほどツボを心得て、不倫小説の王道をいったものと言えるだろう。わかっているけどそれがまた気持ちいい、というマゾ的味わいというやつでしょうか。なんか感想文もちょっと卑猥な感じになってしまいました。。。