『貧困の克服』アマルティア・セン著(集英社新書)

『自由と経済開発』の方を以前買って読み始めたのだが、あまりに読みづらい訳文で、途中で放り出してしまっていた。それに較べると、こちらは講演を文章に起こしたものなので、とても読みやすい。残念なのは、それぞれの内容が少しずつダブっているところだろうか。といっても、頭が固くなってきた読者(ボクのこと)には、わかり易くていいかもしれない。

“民主主義”というものについて色々なことを考えさせてくれる本だと思う。権威主義と民主主義、個人と国家、思想・宗教と寛容という概念・・・。著者がここで記した民主主義の価値は、いわゆる一般的な民主主義のメリットと少し性質を異にする。こういう考え方もあるのか、という点で視野が広がった感じがする。

それと同時に、民主主義そのものもあまりに多様な社会・多様な国家の基本となってきたことにより、先が見通せない感覚もある。
セン教授は、とにかくひたすら“自由”というものの重要性を説くのだが、例えば先進国と言われる各国の民主主義には、ここで述べられている段階の民主主義から、もう一歩進んだ新しい民主主義の価値観を見出す必要があるのではないかと思うのだ。
今の日本の政治・経済の閉塞感なんかを考えてしまうと、理想的に機能している民主主義がこの国に存在しているとは思えない。こうした欠陥民主主義を正しい方向へ向かわせるには、どのような方法があるのだろうか。