『カップルズ』佐藤正午著(集英社文庫)

う〜ん、やっぱり面白い。これは、自分がふとしたきっかけで聞くことになった他人の話、というような形態をとったオムニバスのような短編集だ。ところで“オムニバス”って何だろうと不思議に思ったので辞書をひいてみたら、“乗合バス”っていうような意味があるんですね。オムニバスのバスは乗合バスのバス?

さてさて、この本、読み始めたときは“ん?”というか“アレっ?”っていう感じ(つまりハズレ?)だったんだけれど、二つ三つと進むうちにやっぱり面白くなってきた。特に亡くなってしまった人についての話、『アーガイルのセーターはお持ちですか?』と『あなたの手袋を拾いました』と『グレープバイン』の三編は、ちょっと切なく心に沁みる。どうやっても届かない遠くへ逝ってしまった人たちの、今となってはもう解り様のない謎のようなものが、余韻のようにあとを引く小説だ。

もう何冊か読んできたけれど、この人の本って、読むたびにちょっといい意味で裏切られ(印象が変わり)、読み終わるといい小説だったなと思える不思議なところがある。