『東電OL症候群』佐野眞一著(新潮社)

前作『東電OL殺人事件』から二年ほどになるでしょうか。色々な面で目を離せない事件なのですが、僕自身の中で、どうしても心の中の引っ掛かりとして理解できないのが、亡くなってしまったこのOLを、そうした行動に駆り立てた心の中の闇です。その後の経過をまとめたこの本では、ネパール人の容疑者の裁判の成り行き、そしてそこに浮かび上がってくる日本の司法の闇、そして前作のあとで作者に寄せられた多くの人(特に女性)からの手紙や取材から見えてくる社会の歪みという部分に焦点をあてて、この事件を検証していきます。

本人についての新たな事実や、家族・知人などの証言など、殺害されてしまったOL本人についての新たな事実がもう出てこない状態になっているのか、テーマとして本当は最も中心に据えられるべき彼女の心の闇に迫っていく部分に欠けていることが、読み手としては残念に思われます。

それにしてもどうしてこれほど多くの人達がこの事件に関心を持つのでしょうか。この本の中では多くの女性から、共感された手紙が数多く寄せられたことが書かれていますが、男である僕には“共感”という感覚にはやっぱり理解できない部分があります。たとえば“誰とでも寝る”ということと“お金をとって不特定多数の男と寝る”というのは全然違うことだと思うし、あれほどまでに自分を貶めてしまう行動が、どんな動機によるのかというのは、想像して理解に至る領域を遥かに越えてしまっているように感じるのです。

結局彼女は殺害されて、その後にこうした行動が明らかになり、そこに存在していた彼女の心の闇に人々が吸い寄せられているという状況といっていいのでしょう。しかし、もし彼女がこの殺人事件に遭遇する前に、彼女自身の罪において捕えられ、取調べを受ける中でこの事実が明らかになっていったのなら、私達一人ひとりは、そして社会はどのような反応をしたのだろうか、と想像したりしました。