『マサイの恋人』コリンヌ・ホフマン著(講談社)

面白いというか、ヘンなというか、とんでもないというか、そんなノンフィクションである。スイスでリサイクルブティックを経営していた27歳の女性が、旅行に行ったケニアでマサイの男(戦士)に一目惚れをする。押しかけ女房のような強引なアタックの末、現地で結婚・出産。しかし3年後に破局し、子供をつれてスイスへ帰るというその一部始終が書かれている。

面白くて一気に読む、というよりは、まったくようやるわ、という驚きのような感覚のほうが強かった。もちろんその驚きの中には、マサイの人々の暮らしや生活習慣であるとか、アフリカ社会のさまざまないい加減さであるとかがあるのだが、それより何よりまったく驚くのは、この本人であるコリンヌという女性のよい意味での逞しさ・勇気、悪く言えば身勝手さ・自己中心的な物の考え方であろうか。
まずは恋愛という関係において、ギョッとしてしまったのが、相手の男を“私のマサイ!”と言ってしまう感覚。
もちろんそこには社会水準の違いや教育水準の違いなど、著者が暮らしていたスイスの社会とは、比較しようもないほどの格差が存在する。しかしそんな格差を含んでいつつ、そこにはその地方なりの、その種族にはその種族なりの生活の慣習や社会の成り立ちがあるわけで、その違いはどちらから見るのが正しいというような単純なものではないだろう。しかしあくまで彼女の視線は、スイスにおける位置からの視線なのである。そしてその違いやギャップを意識するのも、あくまでヨーロッパ人の視点なのだ。

結局はなるべくして迎える破局なわけだけれど、まあ3年間もよくやったよ、という感想もあるし、別の思いとすれば、言葉もわからず読み書きも満足に出来ないゆえに不可能であろうけれど、相手となった男(マサイの戦士)の側から、同じことを書いてみたらどんな物語になっただろうか、ということだ。