『金輪際』車谷長吉著(文春文庫)

今更ながらだけど『赤目四十八瀧心中未遂』は、もう読まれましたか? 僕にとって、ここ数年の読書の中で、最もインパクトがあったのが、この作家の直木賞受賞作のこの小説でした。それ以来ポツポツと著作を見つけては読んでいます。

私小説作家として有名ですが、現代という時代にあってその作風が異端だからなのか、作品を読んでいると、他のどんな作家にも感じない、妙に“ヒリヒリ”したような雰囲気を感じます。『赤目・・・』が、ガツンとくるほどの衝撃だったので、その後読んだ他の作品にはそれほどのインパクトは感じないけれど、この独特なヒリヒリ感というのもまた妙に読むたびに懐かしいような思いを起こさせるようです。

今回の『金輪際』は7編の短編からなる作品集です。短編といっても、いわゆる短編というべき短い小説から、中編に近いような、そこそこの長さの小説まで、ページ数はかなりバラツキがあります。実は出来についても、前半はイマイチかなあ、という印象だったのですが、後半の3作はこの人らしい雰囲気を充分堪能できる作品でした。

一番最後に収録されているのが『変』という短編ですが、芥川賞の選に漏れたときのことなどが綴られていて、たまたまこの前に読んでいた太宰治の、同じく芥川賞落選の際の事件(?)などとダブりました。私小説作家というのは、なんかこう業の深いものなのでしょうか。いや、私小説作家がそうなのではなくて、人間の本性そのものが、業の深いものなのだろうな。