『日本経済の罠』小林慶一郎・加藤創太著(日本経済新聞社)

久しぶりに真面目に頭を使う本で、ちょっとくたびれたけど、とっても面白かった。実際の経済で起きている状況や現象を解き明かしていくことは、ある意味推理小説の謎解きのような面白さがある。
本書は中でも述べられているけれど、まったくオリジナルで革新的な理論を打ち立てた本ではなく、一つずつではすでに発表されている(あるいは経済学の上では既知の)学説や理論を、広く大きく再構成しているものだ。そしてそのテーマは1990年代のいわゆる日本の経済における“失われた10年”が、なぜ起きてしまったのか、そしてなぜこれほど長い不況がつづいてしまったのか、そしてそこから脱出するためにはどのような方法をとるべきなのか、ということである。

やはりそこには“不良債権”という大きな問題が存在しているのだが、それが何故景気を低迷させ、毎年多額の政府投資を行い、時には銀行への公的資金の投入を行いながらも、なぜ解決できないかということがわかりやすく述べられている。そしてここで述べられている説からいけば、現在行われようとしている“構造改革”とやらや、少々の景気回復程度では、決してそのトンネルを脱出できないのだなあということもわかる。
その核には経営者や投資家、そして消費者の“マインド”が大きな部分を占めていて、そこは今ひとつ不確実なところだと思うのだけれど、これだけは人間が営む社会である以上仕方の無いことなのだろう。仮定の話で言えば、例えばもっと大きな予算を一時に公共投資として行えばどうだったのか・・・、とか、この間の小渕・森・小泉といった総理大臣よりも、例えばもっとカリスマ性のある指導者が現れて、実体はなくても将来的に明るい展望を感じられたらどうだったのか・・・、というような事も気にならないではない。
とはいえ現実の政治の状況を見ると、田中前外相と鈴木宗男問題からこちら、政治的関心が与野党とも恥じのなすり合いや報復合戦みたいなものばかりで、もうちょっと真面目に仕事してくれよ、と言いたくなる。

実用書として読むには、かなり真面目な正統派の経済学の本と言ってよいだろう。一般の人にもなるべく解り易くなるように、書き方や構成の工夫しているところもとても評価できる本だと思う。まったく経済学を勉強したことのない人にはちょっと敷居は高いのじゃないかな、とも思うけれど、理論は理論として勉強させられることが通常な経済学において、現実のしかも現在の状況そのものを題材において勉強できるという点では、ある意味では入門書として読むこともできるかもしれない。