『翼はいつまでも』川上 健一著(集英社)

ぼくにとっては、はじめて手にとった作家だが、読み始めたら止まらずに、一気に最後までいってしまった。東北十和田の中学校を舞台にした、青春小説というよりも少年少女小説といった趣きのとてもピュアな物語りだ。読み始めた時は、中学生を描いた小説ではちょっと子供っぽいのではないかと思ったのだが、そういったことよりもそこに描かれる様々なエピソードに、自分自身のその頃の姿を思い出さずにはいられず、なんともいえない懐かしさのようなものが込み上げてきた。こんな年になって、中学生の恋心の描写に胸がキュンとなるのも、なんだか恥ずかしいようなの気持ちだ。とはいえいいものじゃないですか、こういう初な気持ちのレンアイ。

この小説ではビートルズがとても大事な小道具でありテーマにもなっていることも、僕らの年代にはたまらないものがある。登場人物たちは中学生でビートルズに出会い、それを機に若いということの意味やその力のようなものに気付きはじめる。中学生頃というのは、だんだんと大人の世界に近づき、そこでぶつかったり傷付いたりして、色々なことを学んでいく時代だったのだろう。大人になって、そんな頃の姿をこういう小説で懐かしく思い出すのも、とても幸せなものだなと思った。爽やかな読後感だ。

中学校の頃、出たばかりのビートルズの青盤・赤盤に胸をときめかせた思い出、好きな女の子の机の中に名前を書かないラブレターを置いた思い出・・・、そんな事を思い出してしまいました・・・。