『バベル』(2006年米 WOWOW)

なかなか見ごたえある映画でありました。

色々考えさせられるという意味では複雑な映画という感じでもあります。構成としては最近流行りの、いくつかのハナシが同時に進行していくという作りになっています。
で、作品として考えたときに、これは何の話なのか、ということを思うのですが、ひとつは『一丁の銃をめぐる数奇なストーリー』ではないか、と思ったり、もうひとつは、『いくつかの家族の再生と崩壊のストーリー』と思ったり、自分の中ではコレ、という確信に至りません。
あ、もちろん“バベル”というタイトルですから『バベルの塔』の話が下敷きだというのはありますが、だからこういうことなのよ、っていうのは映画の場合は通用しないと思うんですよね。試験問題にアンチョコを見て答えるようなものなので。

物語は、1.ブラッド・ピット演じるモロッコを旅行中の夫婦の話、2.その留守宅の兄妹とその世話をするメキシコ人の女性の話、3.役所広司菊池凛子の父子の話、4.役所広司がハンティングのガイドにプレゼントした銃を購入した羊飼いの一家の話、の4つが絡み合っていきます。

『一丁の銃をめぐる数奇なストーリー』と考えると2の部分がしっくり馴染まないし、『いくつかの家族の再生と崩壊のストーリー』と考えると1と2の描き方に違和感がある、という印象なのです。

時間軸を整理して考えてみると、まず、映画には描かれない二つの話があります。ひとつは4のハンティングでの話、役所広司がモロッコにハンティングに行き、そこでガイドをしてくれた現地の人に銃をプレゼントしたこと。そしておそらくその前の出来事として、3の役所広司の妻(菊池凛子の母)が銃で自殺して亡くなっているという話しがあります。もしかするとその銃をモロッコでプレゼントとして置いてきたのかもしれません。

ストーリーが始まるのは、モロッコでガイドがその銃を羊飼いの一家に売るところから始まります。羊飼いの家の兄弟が銃を持って放牧に行き、試射した弾が、たまたまモロッコを旅していたブラッド・ピットの妻に命中してしまう、というつながりなので、1と4は劇中でも同時進行し、違和感はありません。

2のストーリーは、兄弟の面倒をみていたメキシコ人女性が、息子の結婚式に故郷に帰ることになり、その間子供の面倒を見る人がないため、子供二人を連れてそのままメキシコへ行き事故がおこることになります。劇後半で明らかにされますが、ブラッド・ピットが家に電話をして子供と話すシーンでは、すでに妻が打たれ、病院に運ばれてからの話しなので、時間軸としては、その後に起きた事件ということになります。

3の日本で進行するストーリーも、モロッコの事件がほぼ解明され、銃の番号から役所広司の名前が出て、警察がその確認訪れるところから動いていくので、上記の2同様、時間軸は後ろにずれたところにあります。

見ていない人にはわかりにくい書き方になってしまいましたが、同時進行している1と4の話しと、それ以降の時間で進んでいる2と3の話しが入れ子になっている構成というのが、どうしても不可解で意図を理解できないのです。もうひとつ言うなら、時間軸はずれても3のストーリーは1と4の事件とのつながりがあるから理解できるのだけれど、2のストーリーをここに混在させることにどんな狙いがあったのか、時間軸を狂わせる(混在させることにより)印象を複雑化させたかったのか、という穿った見方もしてしまいそうになります。

見終わってのトータルな印象は決して悪くないのだけれど、スッキリしないものが残る映画と言えるかもしれません。コーヒーに例えるなら、決して“アメリカン”ではなく、また“エスプレッソ”でもなく、コーヒーの粉がザラザラと混じるトルコのコーヒーのような感じとでも言えるかもしれません。そのココロは、“苦さを味わう”もの。